「ここに住んでる男は違う」34歳の外資系美人広報、可奈子は夢追い女子になれるのか?

こんにちは、トイアンナです。数百人以上の男女に人生相談を受けてきたなかから、東京に住むリアルな男女の姿が垣間見えてきました。

今回は、そのなかから男性の住む場所にこだわりをもつ外資系美人広報、可奈子さん(34歳・仮名)にインタビュー。彼女は恵比寿麻布十番中目黒で暮らす20〜40代まで様々な年齢層の男性と付き合ってきました。果たして運命の人には出会えたのでしょうか?

※登場人物の個人情報を保護するため、事実を基に小説としてアレンジした作品をお届けします。

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可奈子は溜息をついた。何でこの世にいい男って、全然いないのかしら。自分で呟いたのに、つい笑ってしまう。たまにこうして語尾へ「かしら」をつけてみたくなる。まるでこれまでの人生、そんな言葉遣いしか知らず育ってきたように。

ハタチになるまで、コンプレックスだらけでしたよ。可奈子は目を伏せて笑った。都内の私立中高校出身と経歴の響きはいいものの、オーナー企業の子女に比べれば自分のお育ちが足りていないことは身に沁みる。「かしら」という言葉に対する違和感もそのひとつ。この言葉が私のものになることはない。

そんな可奈子のコンプレックスを解消してくれたのは交換留学だった。英語なら立場を気にせず話せる。階層を超えられる。羽を伸ばした留学経験が幸いして、ラグジュアリーブランドの広報部門へ内定。両親も喜んで、ルイ・ヴィトンのスハリを通勤用バッグにくれた。

VIP顧客を担当した可奈子はくっきりとした顔立ち、そして生意気なほどプロフェッショナルな仕事さばきで一躍アイドルとなった。週末は「接待」という名のデートで埋まった。クルーザー、オーナー店、ベンツ。旧友が当たり前のように持っていたものを、可奈子はキャリアとして手に入れた。今、困っていることはない。

──少しだけ、嘘をついたかもしれない。寝不足の朝ヒリヒリする化粧水を塗り込む34歳の重み。楽しかった20代はまたたくまに過ぎていった。お客様は既婚者ばかりで、シンデレラストーリーなんてなかった。

「結婚したぁい」と唱えた数だけなら、ほかの女と変わらない。私だって努力してないわけじゃない。ただ出会いがない。でもどうしても譲れない条件がいくつかある。

外見、コミュニケーション能力、出身大学に年収……そして、住まい

20代で彼に求めるのは激務高給の証、恵比寿

「自分よりちゃちなところに住んでる男って、みじめよね」

これが可奈子の持論である。

いまの可奈子は年収800万円。それと親からの仕送りもあって、お金に困るような暮らしはしていない。といっても一人暮らしを始めたのはここ数年。就職したときはまだ神谷町の実家住まいだった。広報は夜も遅いので心配されたものだ。1度は職場まで父親が迎えに来たことさえある。

だから「ちょっと友達とご飯してから帰るね」と言っても電車で帰れる恵比寿はデートに最適だった。

可奈子のデートコースは恵比寿4丁目。金曜の夜など、若い子がナンパに引っかかっているのを軽蔑した目で通り過ぎ、お気に入りのワインバーへ向かう。広告代理店といえば電通がある汐留でしょ? と勘違いしているミーハーな子が多いけれど、実はここ恵比寿こそ広告代理店のメッカ。世界1位のJ.W.トンプソンから博報堂グループのDACまで、代理店マンがひしめく街なのだ。

「代理店の子たちって激務でしょ? だから住んでるとこもほっとんど恵比寿。恵比寿で20時に会って、ご飯食べて。少し家へお邪魔してバイバイかな。そのあと男の子たちは仕事へ戻っていったよ。激務で家が遠いと帰れないから、家も恵比寿の人が多くて。一流の人は一流のところに住まざるをえないの。社会ってよくできてるよねえ。一度ここで楽しい思いをしちゃったら、もう郊外に住もうなんて思えない」

代理店マンのデートは遅く、時には22時まで待たされることもあった。そんなとき可奈子は隣駅の渋谷で一杯飲んでからデートへ向かう。20代のころ1晩のお気に入りだったのは、恵比寿西3丁目のカーヴドシャンパーニュ ディヴァンだ。

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※イメージ画像

「ワインが美味しいお店のそばに住んでるといいよね。そのままふらっと彼の家まで遊びに行けちゃうし。やっぱりデートって動線が大事。せっかく恵比寿でデートしてるのに、家がある神谷町より遠い場所なんて行きたくないもん」

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30代なら贅沢を知ってほしい。大人の街、麻布十番

そんな可奈子も、31歳で一人暮らしデビュー。今は麻布十番に住んでいる。というのも、恵比寿にずっと住んでいるのは「いけてない証」だから。

「恵比寿ってどうしてもおのぼりさんって感じが抜けないよね。激務の人はしょうがないって見方もあるけど、30歳にもなったら激務からエグジットできないとね。非効率的な働き方をする人とは付き合えない。そういう人に限って、男として立てて欲しがるし。私の方が仕事できるのに」

可奈子が30代男性に住んでいて欲しい町は麻布十番だという。住まいとして落ち着いてるし、でも遅くまでデートできる場所もある。特に一番好きなエリアは西麻布2丁目、長谷寺のそば。

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※イメージ画像

「近くに暗証番号がないと入れないバーがあってね、すごくお気に入り。大人の隠れ家として洗練されてて。それに店員さんがイケメン揃いだから最悪、デートしてる相手が気に入らなくてもバーテンダーを見つめていればいい(笑)。こういうお店が近所にあるんだ、ってスマートに使いこなしてくれると好感がもてますよね。ガチガチに緊張するくらいなら帰れ!って思うけど。だってもう30代よ? 初心者です……ってバーへ入れる歳でもないじゃない?」

可奈子は近くに住んでいた彼と足しげく通った。けれど、可奈子と3年付き合った彼はもうそこにいない。

「彼へずっと、いつになったらプロポーズしてくれるかなって思ってた。でね、いろいろ試したんですよ。結婚指輪のカタログを見せたり、子供の話をしたり。そういう時に彼もノってきたんですね。だから私は目力でいつも『まだ?』ってレーザービームを飛ばしてた。

それなのに、ひどいんです。1年半くらい前のことなんですけど、俺は40歳まで結婚しなくていっかな~、なんてアッサリ言われて。しかもソファに寝転んでビール飲みながらですよ、信じられます? 体温がグワアアッて冷えてった。もう後ろから刺そうかなって思いました」

その彼に私の男運を吸い取られちゃった気がする、と可奈子は語る。

「そこから出会いを増やしてもどうしようもない遊び人ばっかり。こっちは遊びじゃなくて、まじめに付き合いたいのに。昔なら商社のマッチョ君にリードされてもまあいっかって思えたけど、今はデートするのがしんどい。また元彼みたいに数年待たされて、結婚する気がないなんて言われたら次は37歳になっちゃうよ、どうしようって。早く落ち着きたい、最近切実にそう思ってます」

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40代が遊び尽くした体を休める都心のベッドタウン、中目黒

そんな可奈子は現在、バーで知り合ったイベント設営会社のCEOとよくデートしているようだ。付き合ってるわけじゃないですよ、と強調する45歳の彼が選んだ住まいは中目黒1丁目のタワーマンション。週末になると家で「男の料理」をするのが楽しいという。

「同年代の男の子はまだまだクラブ遊びや合コンでワイワイやってて。もっと落ち着きなよって思っちゃって。ちょっと対等に話をするのは無理だよね。でも今の彼は年上すぎるし、正直付き合うとかは考えられない。介護とか、現実見ちゃうとね」

この前は広いシステムキッチンをフル活用して、取り寄せたジビエを低温調理した。今までの彼と違って、苦しい背伸びをしてこないから「わあ、こんなの初めて♡」と何度も訪れたレストランで目を輝かせる演技はいらない。それでいて最初の一口はいつも可奈子に譲ってくれる。人生の一番おいしいところを、ぜんぶ可奈子へ取り分けてくれる彼の世界を抜け出すのは難しい。

「今の彼、彼氏じゃないから私はいつも『やっさん』ってあだ名で呼んでますけど……やっさんはいつも私を好きだよ、愛してるよってメールしてくれます。でもね、ここが沼だってことは分かってる。ここにずっといたら、本当にどこにも行けなくなっちゃう」

でもね、と可奈子は続ける。

「彼とランチしてから、よく目黒川を散歩するんですよ。桜の季節なんてほんときれいで。いつかはこういうところに落ち着きたいなって思うんですよね。このまま麻布十番に住むのもいいけど、ちょっと疲れちゃったかなって。中目黒でも1丁目の駅前付近は外交官のご家族も暮らしてて、全体的に住んでる人のレベルが高いんですね。子供なんかいたら、住み心地いいだろうなって思っちゃう」

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sakura
※イメージ画像

可奈子は20代のころ結婚したい、ましてや子供が欲しいなんて考えもしなかったという。飽きるほど見下ろしたグランドハイアットに広がる六本木の夜景、西麻布のVIP専用カラオケ、同伴した晩餐会。そこで楽しくお酒を飲む仕事。ここまできらびやかな仕事があるなんて、友達と育ちを比べて苦しんだあの頃は思いもしなかった。今、困っていることはない。

……というのは嘘だ。

「実は、仕事が最近うまくいってなくて。……本当は、もう会社辞めたいんですよ」

不意に可奈子から吐き出された言葉。その表情から一瞬にして輝きが失われていった。

「華やかに見える仕事ですけど、深夜2時まで打ち合わせなんてことも多いんです。だから週末のクッキングが楽しいのかな。転職エージェントにも相談はしてるんです。けど、この給与水準だと厳しいって言われちゃった。結婚したいなあって、本当によく思いますね……最近」

ここまで話して肩の荷がおりたのか、可奈子は少し微笑んでから一気に紅茶を飲み干した。そして、ひと呼吸を置いてから、どちらとも取れない曖昧な口調でこう呟いた。

「でもね、どうしていい出会いがないんだろう。本当に」

──可奈子の<いい出会い>はどこにあるのか、その答えは本人が誰よりも知っているだろう。だから私は触れられなかった。また何かあったらいつでも連絡してくださいね、と名刺を渡して帰ったけれど、それから数ヶ月。彼女は元気にしているだろうか。

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